眩む病む荒む寒い未来を想像して、僕は二つ咳き込んだ。燃え盛る魂は身体という行き場をなくした。ため息ばかり出る。タバコの火も心の灯も足でもみ消される。夢は枯れ野を駆け巡るなら、愛は泥沼の底でもがいている。時間が解決してくれるなら、無為に過ごすかけがえのない一瞬の今について、どう責任を取ってくれるんだい?

時間がないから? ヒマ人じゃないから? 彼らは魂の脱け殻だ。一度表現者を目指したなら、溢れ出るパトスもロゴスもあるだろう。僕には火山の噴火口のような表現の欲求がある。放火魔よ、僕に火をつけてくれ。だが、火の海になった僕の心に身体が追いつかない。身体は死海で、火は線香花火ほどの寿命もない。

ありふれた言葉も嘘もいらない。他に二つとない真実の言葉だけ聞きたい。おしゃれなグレーのコートを脱いだ女の子、どんな言葉を吐いてくれるんだい? 109で売っているような言葉ならいらない。話そう、僕らの未来を。

ジャイアンよりも、たくあんが大好きです。

あいつをギャフンと言わせたい。ギャフンじゃなかったら、ウフンと言わせたい。


僕は猛烈に怒っている。なぜならば、あいつは僕に「このあまちゃんが!」と言ったからだ。
僕はあまちゃんじゃないよ、辛ちゃんだ! なぜならば、納豆にはカラシを入れるからだ!
朝ドラの「あまちゃん」なんて目じゃないぜ! 俺はジャニーズよりも売れっ子のアイドルだ!
俺のファンは全国に7人もいるんだぞ!


僕がぶつぶつ文句を言っていると、独身女性24歳の姫がそれをさえぎってこう言った。


「まあ、ジャイアンがむかつくのは私も分かるよ。あいつは人の気持ちの分からない奴だ。こないだなんて、私に向かって「貧乳!貧乳!」と言ってきた。これでもCカップあるんだぞ!
あのセクハラおやじ。訴えてやる! 慰謝料100万ペソだ!」


二人で同僚のジャイアンへの文句を言い合っていると、ヅラの係長が口を挟んできた。


「怒りは身体によくないですよ。そういう時はこれを読みなさい」


そう言ってヅラが差し出したのは、「怒りさんとさようなら 〜精神科医が教えるいつでも心を平静に保つ38のコツ〜」と表紙に書かれた本だった。

姫が不機嫌な口調で言う。
「ヅラお得意の自己啓発本かよ。自己啓発本は、生き方を情報にしている点で堕落しているんだ」


ヅラは「私には難しいことは分かりません! 著者の香山イカさんは私の人生の恩人です!」とのたまう。


イカだかタコだか知らないが、お刺身は大好きだぞ!」と姫が返す。


じゃあ、今日は寿司屋に行くか。
僕がそう提案すると、姫もヅラも笑顔になり、これにて一件落着なのである。人生苦もありゃ、楽もあるのである。

失業の伝え方

体育館の裏、なんて漫画や小説で言うだけで、実際にそこで上級生から金をせびられている生徒がいるかなんて知らないし、僕には関係ない。金をせびられそうになったら、中指を立てて「ファッキン!」と叫びながら一目散に逃げるだけだ。


僕に関係あるのは、ロボットが登場するゲーム。筋金のロボットアニメのファンである僕はロボットが出てくるゲームならなんでも買う。そして、買ったゲームの大半はちょっと遊んだだけで中古屋に売り、残りのごくわすかのゲームに連夜、父さんが残業して帰ってくる深夜まで熱中する。そして、次の日の学校の授業では爆睡。先生には目をつけられている、と思う。


母親はいない。僕がものごころつく前に若くしてガンで亡くなってしまった。炊事・洗濯は中学生の僕がやる。父さんは残業で忙しい。どんな仕事をやっているのか知らないけど、不動産業だってことは知っている。


その日も遅くまでゲームをしていた。「桃太郎献血」というテレビゲームに熱中していた。ロボットに乗って全国各地を献血して回るという慈悲深いテレビゲームである。どこにロボットに乗る必然性があるのかは誰にもわからない。


深夜0時を過ぎた頃だったろうか、家のインターホンが鳴る。父さんだと思って受話器を取ったら、確かに父さんだったが、知らない人達の声もした。父さんが「この人達、父さんの会社の仲間なんだけど、終電逃しちゃったんだよ。今夜だけ特別に泊めてあげることにしたんだ」といつもよりも上ずった声で言う。酒に酔っているのか?


家に上がり込んできたのは、父親、若めの男性、父親より少し年を取って見える中年男性(この人はネクタイを頭に巻いて完全に出来上がっている)、えらく美人な篠田麻理子似の女性。その美人は周りから「姫」と呼ばれていた。


「姫、今夜もあの儀式をしましょうか!」


中年男性が言うと、若めの男性が答える。


「いやいや、高橋さんのお子さんもいることですし、僕たちは泊めてもらう側ですよ」


おじさん達が言うことも、その後、父さんが意気揚々と放った一言も僕をひどく混乱させた。


「息子にも普段俺らがやっていることを知ってもらった方がいいかもな」


ええっ!? 儀式って何? 普段、父さんがしていることって、不動産の仕事じゃなかったの? なにこれ、なにこれ。怪しい宗教の類?


「仕方がないわね。それじゃあ始めるわ」


そう言って「姫」は、先に白い紙切れのついた棒を振りかざし、何やら念仏を唱え始めた。


「エロエロエッサイム、エロエロエッサイム…」


その直後だった! 中年男性が「ボワーン!」と叫んで腹芸を始めたのは!


「ラブ、ラブ、ラブずっきゅん♪」


中年男性が声を大にして歌う。僕以外の皆が、負けじと「ラブずっキュン」を合唱し始める。


中年男性の腹には、マジックで簡単な顔と、その下に「高橋課長、ラブ(はあと)」と書かれていた。メタボなお腹をタプタプと揺らしながら踊り続ける。その腹芸は翌日の朝まで続いた。僕はただ呆然と見ているしかなかった。


翌日の早朝、他の大人たちが家を出て行った後に父さんはポツリとつぶやいた。


「父さんは倒産したんだよ」



そんな親父ギャグ、いまどき流行らないよ。僕は昨夜からのことを見なかったことにして、学校に向かった。後日、「話がある」と改まった顔つきで言う父さんから話を聞いたところ、本当に父さんの会社は倒産したらしい。

Hey! 宇宙人!

流れ星のように地上に飛来してきたアレ。
アレはUFO? それともお釜? クリス松村はオカマ?
やきそばはUFO? カップヌードルは日清? うどんはどん兵衛


着地したUFOらしきもの。
ドアがついているようで、そのドアがよくある自動ドアのようにウィーンといって開いた。アイーン。
開いたドアからあふれた光が夜の空地に注ぐ。
眩しい光の中から現れたのは、たまごっちのおやじっちとよく似た生物だった。
まず目を引くのは足がタコのように8本あること。
ヨレヨレの背広を着て、小島よしおがはいているような海パンをはいている。
頭の毛はバーコードハゲ。僕も将来はああなるのかな……。僕は潤んだ瞳でそいつを見つめていた。


その奇妙な生物が、UFOに備え付きの階段をスタスタと降りて僕たちのところへやってきた。

「我々ハ宇宙人ダ」

「我々」って、一人しかいないやんけ。

「細カイコトヲ言ウデナイ。我々ハ地球ヲ征服シニヤッテキタ」


この宇宙人が来るまで、僕たち3人は空地に酒とツマミを持ち寄って宴会をしていた。
3人だけの夜の宴。同じ課に配属された通称ジャイアンへの悪口を肴にして。
ここだけの話、独身女性24歳の姫は酒癖が悪く、酔うと関西人になる。


いい感じにできあがってきた姫が宇宙人に向かって言う。

「そんなこと言ってないでこっち来て呑もうや」


腹が減ったと言ってコンビニで買ってきた日清のカップヌードルを食べているヅラも言う。

「君もヅラにしたらどうかな?」


宇宙人の声がみるみる怒りを帯びていく。

「我々ハ地球ヲ征服シニヤッテキタ!」


一人で何ができるんだい?
見るからに弱そうだし。


「コレデモ喰ラエ」


宇宙人がそう言ってポケットから取り出したのは、
手のひらサイズのカピバラさんのぬいぐるみだった。


「ドウダ? カワイイダロウ?」

姫もヅラも宇宙人を無視して飲み食いをし続ける。
ジャイアンむかつくよなー、完全に上から目線」
「ネクタイのセンスも悪いですよ」


「完全ニ怒ッタ。人質ニコイツヲ連レテ帰ル」


宇宙人が指を鳴らすと、哀れなヅラは宙に浮いて、UFOの方へ吸い込まれていった。



その事件以来、僕たちがヅラを見ることはなかった。


〜完〜



「待ったー! 「完」にさせるか!
 正義のロイヤルヅラフラーッシュ!!!!」


ヅラがヅラを取ると、希代の必殺技・ロイヤルヅラフラッシュが発動する。
あたり一面、まばゆい光に包まれる……!


こうかはばつぐんだ!!
宇宙人が腹を抱えて痛がっているところを見ると、
宇宙人にだけダメージを与えるロイヤルヅラフラッシュのようだ。
目を白黒させた宇宙人は、「ウグアァァ」と低い声でうなって退散した。
宇宙人が駆け込んだUFOは、すごい音をたてて上空に浮かび、
そのまま高度を上げていき、やがて見えなくなった。


姫はよくやったと言って拍手喝采。僕も笑顔でヅラの帰りを出迎える。
僕たちは宴会を続けた。
こうして僕たちの夜は更けていくのであった。


電波女と青春男】(OP PV-MAD)Os-宇宙人 [HD]

DocumentaLy

ちょっと前の日の夕方、同期で仲の良いN君にトイレで「死んだ目をしているね」と言われたんだ。死んだ目!? 死んだ魚のような目? 死んだサンマのような目? 死んだシャケのような目? サンマより、シャケの方が好きだな。オーマイガッド。そんなに僕は疲れた表情をしていた? そんなに僕は精力なさげな顔つきだった? 赤ひげ薬局のお世話にはならないぞ。年をとっても明石家さんまぐらい元気でいたい。ぴっちぴちのサンマでいたい。

教えてくれ、姫! 元気を出す方法を! オロナミンCより元気ハツラツな僕のはずなのに、傍目には僕は元気がなく見えるらしい…。

姫は優しく答える。「あなたの得意なことを3つ考えてみて」。

得意なこと?
そうだな・・・

まず、便のお通じがいいこと。

次に、「おはようございます」とあいさつができること。

最後に、一人でカラオケに行っても恥ずかしくないこと。
誰も見ていない中、神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴りやまないっ」を大声でシャウトするのさ。

疲れているんだろう、僕は。
笑って、笑って、笑ってたのに泣いていたんだ。

何事にも不慣れな身を世界にアジャストすることでどっと疲れる。
スピッツはビギナーのままで歩き続けられるよ、と歌ったけれど、ビギナーは小さなことにもくよくよするんだ。

だけど、勝間和代のような一直線なタフさやガッツはうざったい。
迷っていたい。もう事件は迷宮入りなのだ。金田一万が一迷宮入りしてるのだ。

夜に一人の部屋でビールを飲みながら迷宮に籠る。
疲れを喉の奥へ押し流し、何も周りが見えない孤独におびえている。

カラオケに行ってサカナクションを熱唱すればこんなことは忘れるのかもしれない。その時、隣に誰かいればこんなことは忘れるのかもしれない。こんなことを考えるのは、バッハの旋律を一人聴いたせいかもしれない。どうしても叫びたくて叫びたくて僕は泣いているんだよ。

ヅラの係長の視線がさっきからこちらを気にしている。僕を心配してくれているようだ。

「もう今日の残業はいいですよ」
ヅラが言う。

そういう時は、外に出て友人とぱぁっと飲んでくればいい。ヅラが暗にそう諭しているようだった。
僕は家を出る。コンビニの明かりに吸い込まれる。

姫が迷宮から一歩踏み出す。僕は黙ってそれを見る。
行かないで、見渡して。羽ばたいて、口ずさんで、いつか。

ゲッツ!

視聴率がないこのブログ。読んでくれている数少ない人、ありがとう。ここで視聴率アップ大作戦! 踊るぜ、ひゃっほい! マイケル・ジャクソンばりのステップで、ゲッツを敢行するのさ! ゲッツゲッツゲッツ! 夢見るゲッツ! あぶら取り紙ゲッツ! チキンナゲッツ! 大学生のころ、サークルの罰ゲームで、スケートリンクの前にいる女子たちの前でゲッツを踊り続けたら大爆笑をさらったんだ。そうだ、僕にはゲッツがある。腐っても鯛、腐ってもゲッツ。

姫が言う。
「今の時代にゲッツなんて流行らないわ」
そんなことはないさ。ダンディ坂野は伝説なんだ! 僕の人生のメインテーマはゲッツなんだ! YouTubeの再生回数も1万回を超えているんだ!

僕はひたすらゲッツをし続けた。冷たい視線にさらされても、ほとばしる熱いパトスでなけなしのゲッツをし続けた。ゲッツをすることに何の意味がある? でも、僕にはゲッツをするしか残された道はないんだ。

そうしていたら、目の前にダンディ坂野が現れたんだ。

「僕のギャグをパクるんじゃないよ」

彼はそう僕に言って去って行った。

ダメ男の優雅な休日

いつの頃からか……。僕はダメ男になってしまっていた。早寝遅起きの常習犯、いちにちじゅう干物男。このままではいけない! そう思ってもダメ男はダメ男。だめだめだーめだめだめだめ。ギャグを言ってもスベスベスーベスベスベルー。今の僕は何をやってもスベルトンなんだ。僕の師匠であるダンディ坂野の100倍面白くない。ゲッツもガッツもない甘ったれ人間なんだ……。

バチコーン!!

ヅラの係長が僕を殴る!

僕「ウッ、殴ったね」
ヅラ「殴ってなぜ悪いか。貴様はいい、そうやって喚いていれば気分も晴れるんだからな」
僕「僕がそんなに安っぽい人間ですか」

バチコーン!!

僕「2度もぶった。親父にもぶたれたことないのに」
ヅラ「それが甘ったれなんだ。殴られもせずに1人前になった奴がどこにいるものか」

ちっくしょー! こうなったら、まっとうな人間になってヅラの係長を見返してやるぅ! えなりかずきよりもまっとうな人間になるぞ!
僕はパジャマの格好のまま外へ走り出した。ラン! ラン! ラン! 走るー走るー俺たーちー、流れる汗も拭き取らず。僕は甘ちゃんなんかじゃない! 辛(から)ちゃんだ! お昼に食べるのはインスタント食品の辛らーめん。夜に食べるのは星の王子さま、じゅなくて超激辛スパイシーカレー。

僕は脇も見ずに走り続けた。走り続けることに正解があるのだと信じて。ランニングマンのQQQ。世界一のアスリートも今のQには敵わない……! 僕をダメ男界のQちゃんと呼んでくれ! ハイキングウォーキングのQちゃんなんか、エセQちゃんだ! 目の前にあるバナナの皮をひょいとかわし、お猿のように至る所を駆け回る!

「うっきぃ! 今の僕を見て! 僕、こんなに走れるよ!」