ジャイアンよりも、たくあんが大好きです。
あいつをギャフンと言わせたい。ギャフンじゃなかったら、ウフンと言わせたい。
僕は猛烈に怒っている。なぜならば、あいつは僕に「このあまちゃんが!」と言ったからだ。
僕はあまちゃんじゃないよ、辛ちゃんだ! なぜならば、納豆にはカラシを入れるからだ!
朝ドラの「あまちゃん」なんて目じゃないぜ! 俺はジャニーズよりも売れっ子のアイドルだ!
俺のファンは全国に7人もいるんだぞ!
僕がぶつぶつ文句を言っていると、独身女性24歳の姫がそれをさえぎってこう言った。
「まあ、ジャイアンがむかつくのは私も分かるよ。あいつは人の気持ちの分からない奴だ。こないだなんて、私に向かって「貧乳!貧乳!」と言ってきた。これでもCカップあるんだぞ!
あのセクハラおやじ。訴えてやる! 慰謝料100万ペソだ!」
二人で同僚のジャイアンへの文句を言い合っていると、ヅラの係長が口を挟んできた。
「怒りは身体によくないですよ。そういう時はこれを読みなさい」
そう言ってヅラが差し出したのは、「怒りさんとさようなら 〜精神科医が教えるいつでも心を平静に保つ38のコツ〜」と表紙に書かれた本だった。
姫が不機嫌な口調で言う。
「ヅラお得意の自己啓発本かよ。自己啓発本は、生き方を情報にしている点で堕落しているんだ」
ヅラは「私には難しいことは分かりません! 著者の香山イカさんは私の人生の恩人です!」とのたまう。
「イカだかタコだか知らないが、お刺身は大好きだぞ!」と姫が返す。
じゃあ、今日は寿司屋に行くか。
僕がそう提案すると、姫もヅラも笑顔になり、これにて一件落着なのである。人生苦もありゃ、楽もあるのである。